2010年7月2日金曜日

「まずじなあ、ライネケ君」 <ライネケ> 

*** ライネケ少年の思い出 ***


スペインのカトリック系の修道会が運営している愛媛県の某私立中学校に入ったら、スペイン人の牧師さんたちが、週に一回程度、教壇に立って教えていた。

そのうちのお一方で、英語を教えてくれた神父さんは、えらく厳しくて、すねに傷持つ悪童たちは、みんな、恐れていた。なにせ、例の反動宗教改革の時に、イエズス会と並んで活躍したドミニコ会の神父さんだからね。厳しかった。生徒たちは皆、彼のことを、ルイ神と呼んでいた。バリエス神父様はバリ神、いつもニコニコ笑っていた岡本神父様はニコ神、といった具合に。本郷神父っておっしゃる人もおられた。皆、今ごろ、どうしておられるだろう。

**************************************************

それで、そのルイ神は、誰かを叱るとき、生徒を立たせて、

まずじなあ、***君。まずじなあ。」

って言うんだ。

どうやら、「お前はまずいことをやった。」と言ってるらしいんだな。その時、怒られる理由は、生徒たちの方にしてみると、理不尽に見えるときもあったのだが、とにかく、その***君は、ただちに、運動場に降りて行って、朝礼台の上に上がって、授業の終わるまで立たされることになるわけだ。夏であろうが、冬であろうが、真っ昼間の広い運動場の校舎側にある朝礼台の上に、生徒が何故だか、数十分、ずっと、直立不動で、立っているわけだ。全校の生徒たちから丸見えだ。

で、その周りを体育の授業の生徒が走っていたりする。時には、間が悪いことに、兄弟で生徒だったりして、立たされている兄貴の横を弟が走り過ぎて、下校後、親に、兄貴が立たされていた不名誉な事実を報告したりするわけだ。それこそ、「まずじなあ、兄貴。」だな。立たされる常連もいたよ。生徒たちの目から見て、別に何ということのない生徒でも、その神父さんから見ると、余程悪い子に見える何か、相性みたいなものがあったようだ。

神父さんというか、宣教師たちは、マニラかどこかで、宣教活動のために、日本語を教育されていたのだろう。おそろしく日本語も上手だった。黒板に漢字混じり日本語をバリバリ書いて授業した。おそらくスペイン人たちの使っていた日本語教科書では、「良くない」「悪い」というのは、「まずい madzüji」とか言う風に書いてあったんだろうと思う。それで彼は「まずい」を「まずじ」と読み覚えたんだろう。

彼の英語はスペインなまりの英語だから、英語を習い始めの日本少年たちの耳には、かなりアクが強くて、Bettyは「ベッティ」だし、betterは「ベッテる」(るは強烈巻き舌のR)、oftenは「オフテン」(英米人でも、tを発音する人はいる。)、sisterは「システる」、misterは「ミステる」だった。

**************************************************

そんな風に怖がられ、嫌われていたルイス神父さんだったが、どういうわけか、ライネケ少年は、このルイス神父様とは折り合いが良かったみたいだ。

というのは、英語の授業が進んで、コロラド渓谷がテーマになった章に入ったある日のこと、授業中、このルイス神父が、突然、オイラの名前を呼んで、質問したもんだ。

「ライネケく〜ん、Coloradoというのはどういう意味ですか?」

「分かりません。固有名詞だから、意味なんてないんじゃないですか?」

今になってみれば、オイラの返事もとぼけてる、と思うよ。でも、機嫌を損ねず、ルイス神父さんは、親切に、教えてくれた。

Coloradoというのは、赤い土という意味で〜す。コロラド渓谷の土は赤いので〜す。」

どうやら、かの土地に初めて行った人々が、スペイン系の人々だったのだろう。そして、あの、土の色の赤さの印象的な壮大な景観を前にして、赤い土の地域という意味でColoradoと名付けたのだろう。

スペインから、カトリックの教えを広めるべく志して、日本語を学び、単身、はるばる極東の日本に来て、日本の中学生たちに英語を教えていて、スペインの言葉が出て来た時、彼の想いは、ふと、故国に飛んだのだろうか。そして、日本の少年たちに向かって、母国の言葉の意味を聞いてみたのだろうか。我が思ふ人はありやなしや?

**************************************************

40年以上も昔の話だ。かの神父さんも亡くなったと聞く。どうか、ルイス神父様が神のみもとで、元気にしておられんことを。

「ライネケく〜ん、Coloradoはどういう意味ですか?」

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

まずじなあ~.

そういう記憶は一生残りますね.
少年時代,という映画もありましたね.
思い出す夏の暑熱.
忘れませぬNoto先生.
理不尽な記憶ほど焼きつくもの.

うにくいたし がま

ライネケ院長 さんのコメント...

<ライネケ>
あの時は辛かったらしいね。

      鈍感父きつね

匿名 さんのコメント...

ろなろなろなろなろなろな!!

ココロに潤いを必要とするがま

匿名 さんのコメント...

<ライネケ>
潤いは自分で創り出すしかないぜ。

ロナは、あまり触られたり、かまわれたり、が好きじゃない無愛想猫なので、ロナロナ言われると、逃げてしまうよ。

アトピーの方はうまくコントロールできているか?

夏休みは帰っておいで。
温泉にでも行って、うまいものでも食おう。