11月末のある日、ネコパコ事務長は、今日は不在。
朝の外来が終わり近く、時々雲が通って行くけど、いい風が吹いているみたいだ。
外来の合間を縫って、ガレージに吊っていた舟を車の上に下ろし、舟の傍らにセールとマストを固定する。こういうことになると、おいらは極めて素早いんだよ。
午前中外来が終了するや否や、ネコパコが用意してくれてた昼食を素早く済まし、Harunoの貸してくれてたウェットスーツを着込む。日頃は苦労するのに、するするっと着られてしまう。
ウェットスーツの上にウィンドブレーカーを引っ掛け、首から、携帯電話と免許証を入れた袋をぶら下げて、車に飛び乗り、浜に向かう。おおおっ。吹いてる、吹いてる。何かの旗がちぎれそうにはためいている。海風だ。
浜に着いた。
はるか沖合の島影に貨物船が行く。
海風が吹きすさんで、うねりが強い。波頭が風にちぎられて白い。
遠くの波が寄せて来ると、だんだん大きくなって、
波打ち際に来ると、怒濤とはいわないが、かなり怖い。
この距離でもしぶきがこちらに飛んで来る。沖行く船がいつまで経ってもあそこに居るのは何故なんだ。風が強くて動けない? まさか。
去年の暮れ、やっぱりかなり寄せ波が強くて、船を波打ち際から、押し出そうとしても、押し返され、打ち返されて、どうしても出せない。そのうち船は、潮が一杯になって、水瓶みたいになり、その下敷きにはなるは、水を出すためにひっくり返そうとしてもままならない程重くなって、本当にどうしようもなくなってあきらめた。もし、これで、うまく離岸出来ても、この高波で沈しちゃったら、危ないかも。
で、結局、情けないけど、今回もあきらめて帰ることにした。振り返ると、東洋レーヨンの煙突の煙が真横に吹き流されている。
大海の 磯もとどろによする波
われてくだけて 裂けて散るかも
箱根路を わが越えくれば 伊豆の海や
沖の小島に 波の寄る見ゆ
どちらも、源実朝だが、技巧的に見える上の歌より、下の歌の方が好きだ。割れる、砕ける、裂ける、散るといい、乏しい知識で有名なものといえば、
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
くだけて物を 思ふころかな
瀬を早み 岩にせかるゝ滝川の
割れても末に 会わんとぞ思う
なんて云うのもあるけど、実朝の才能というか、京の公家でなくて、東国の武士なればこそというか、何というか。大したものだね。
とにかく、オイラは、シッポ巻いて逃げて帰って、窮屈なウェットスーツを脱ごうとするんだけど、今度は、なかなか脱げない。七転八倒して、やっと脱げた。馬鹿馬鹿しい騒ぎだった。
午後の仕事をして、夕闇が迫って来た。いつの間にか、風向きが逆転して、陸風が吹いている。昼間の太陽で暖まった海面で上昇気流が発生すると、太陽が陰って、冷えて来た陸の空気が、海に向かって流れ込むからだそうだ。ヨットに乗るようになってから、風を意識するようになった。
我が家の屋上から、西方の空を見る。夕暮れの空に、東洋レーヨンの工場のシルエットが寒々しい。
今日も一日が暮れていく。
7 件のコメント:
<ネコパコ>
止めは し. な. い.
とめはしませんよ〜
しっぽをおったてて、いそいそピョ〜ンと出かけて行く猫とほとんど同レベルの「お振る舞い」…
風よふけ吹け 風よふけ〜(なんて言ってないよ!!)
今年はあと何回 いざ漕ぎいでよ かな
いよいよ師走も目前
ますますチャンスが減って行くのでちょっとイライラしていませんか?
悠々として充実の巣穴暮らし…。
いいなぁ。
こっちも寒かとです。
ううむううむ。
12月半ばに帰ります。
どうやって帰ろかな…。
がま
<ライネケ>
Soraninがま君。
無理しないで帰って来なさい。仙台は遠いからね。
帰ったら温泉にでも行こう。
楽しみにしてるよ。
そうそう、家を空けるときは、ちゃんと、風呂のカマの中の水を充分に抜いて、水道の元栓を締めるか、凍結防止に、ほんの少しだけ流れるようにしておくものだよ。
みよ 見知らぬ人よ いまこの島で
躍る光に君の喜びを見いだしたまえ。
ここに動かず
もの言わず、立ちたまえ。
海の揺れるひびきが
耳の海峡を通りぬけて
川のごとくさすらっていくように。
(中略)
すべての光景が
きっと君の眼にうつり、
君の記憶の中を移りゆく時があるでしょう。
「みよ 見知らぬ人よ」W.H.オーデン 抜粋
陸は葉っぱの散り時です。
お水は冷たいから気を付けて。
chica
<ライネケ>
おお、いい歌だね。ありがとう。
オーデンか。なるほど。
貴女が、いい趣味の持ち主なので、うれしいよ。
年末には、少しでも、会いたいものだね。
<ライネケ>
Chicaさん、それにしても、このオーデンの詩は、何と言うか、エーゲ海の響きというか、ギリシャの古代詩の香りを感じるね。気のせいか?
くんくん、鼻をくんくん。
オリーブと大理石の欠片のにおい。
ンンー、中学生ぐらいの時から続けている
片っ端から読みあさった、詩集の中から
気に入ったものだけ、抜き取っては集めている
自分のノートから引きずり出してきたので
オーデンのいつの作品かは分かりません。
ノートの隣のページは寺山修司でした。
節操無い感じですので。あしからず。
でも、この詩の続きには「白亜の崖」と
出てくるので、もしかしたらそうなのかも
しれませんね。
chica
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