<ライネケ院長>
やっと、達成できた。
「受診者数一日平均35人以上(週毎計算)が5週連続」
5月に3週連続していたので、どうかな、と思っていたら、4週目で潰えてしまって、残念な思いをしたが、やっと、5週連続が成立した。実は、昨年7月下旬から8月にかけて、年間で一番患者数の多い時期に、一度達成しているんだけど、今年は、それが2ヶ月早く達成できたわけだ。
さて、五月に悔しい思いをしただるまさんのもう片目を入れようではないか。
昨日、松山まで行って、筆ペンを買ったんだよ。このために。
多くの皮膚科開業医にとって、一日平均35人以上なんて、最低のレベルじゃないか、と思うかもしれないが、ライネケ院長は、どうも流行らない開業医の典型らしい。毎日、暇で優雅に能天気な日々を送っている。
聞くところによると、20年前から松山市内で開業しているライネケ院長の高校時代の同級生なぞ、一日100人以上は普通で、2時間待ちも当たり前らしい。一種のカリスマ皮膚科医だ。そりゃ、いいなあ、とライネケ院長もちょっと思った。だって、今くらいの患者数だと、人件費と薬の仕入れ代金を払ったら、ほとんど残らない。サラリーマンだと収入0だものな。
でも、待てよ。今のおいらは、午前中3時間で30人も診たら、かなり忙しい気がする。午前診の終了が正午をかなり過ぎちゃうな。爺さんや婆さん連中とつまらない冗談も言ってられない。ちょっと思惑はずれで、手こずったり、診断に悩むような患者さんがいて、ちょっと考え込んだりすると、たちまち、滞ってしまう。ばたばたと電子カルテに入力して、患者選択画面に戻ると、ずらりと患者リストが並んでいたりする。2年前までいた倉敷の病院では、患者を待たせるといかんというので、ずっと苦しんできた。開業してからは、ひまでひまでしようがなかったけど、最近は時々そういう時がある。
一体どうやって彼は、毎日、そんなに大勢の患者の診察をやってるんだろう。入れ替わり立ち替わり前に座る患者の皮膚をひたすら診て、経過を聴き、診断し、治療を考え、説明する。それを一人当たり、約5分で行う。悩んでいる暇なく、迷うことも許されず、一人終わったら、さっと切り替えて、次ぎの人に移るのだ。一人ちょっと手間取れば、次ぎは本当にあっという間に済ませなければ破綻する。毎日が綱渡りだ。彼もきっと本意でないに違いないと思うよ。
彼は名医という評判だから、2時間待っても待つに値するし、たとえ、数分診療であっても、老練の皮膚科医ならばこその素早い診察で、正確診断、的確治療ができるわけで、彼の患者さんたちは、納得しているし、だからこそ名声を慕って、集まるのだろう。医者冥利に尽きる話と言えば話だな。
おいらには、そういう芸当はできない。この世に薮医者は山ほどいても、それほどの名医なんていないと思っているし、勿論おいらは凡医だからだ。たとえ、おいらが名医だとしても、やっぱり、のんびりやって行くほうがいい。修行のおかげか、年齢のせいか知らんが、物欲も大分減ったから、もうける必要ないしな。
としてみると、患者さんが少なくて経済的に不安だ、と言っている今が、それなりにいいのかもしれん。患者側にしてみれば、一人ひとり丁寧に診てもらえると思うだろうし、こちらにしてみれば、凡医なりに、一生懸命説明したり、処置したり、慰めたりして、少しは人の役に立ってるのかな、という直接的な感触がある。診察し、判断し、処方し、処置し、指示し、記載する。これだけだとどんなに完璧でも、医師という機械みたいだからね。Dr.マシーンだな。機械なら、感情がないので、別にストレスもないけど、人間は感情があり、いかにクールでも、さっきの患者さん、何だか納得してなかったみたい、とか、さっきの処方は、本当にあれでよかったかな、何ぞと考えていると、すっきりしないまま、引きずったままで、時が過ぎる。からだに悪いよ。迷い多いおいらには、今だってそうなんだぜ。忙しかったらなおさらだよ。
ニートの若者の再出発支援のNPOの二神代表は、孤立する若者の社会参加への条件として、『働き・仲間・役立ち」の三本柱が必要だと言う。『働き」っていうのは、一番いやでない仕事をすることで、『仲間」っていうのは、友達だ。『役立ち」っていうのは、自分が世の人のために何か役立っているんだっていう実感だ。幸い、おいらにとって今の仕事はいやじゃない。開院一ヶ月前に面接して選んだ六人の事務方さん・看護婦さんが、そっくりそのまま、六人六様個性を発揮して仲良く仕事してくれている。勿論、ネコパコ事務長もいる。仲間がいるわけだ。おいらはウオノメ削りをやるのが好きだ。ウオノメを削ってあげると、患者は、処置室の床に降り立った途端に、『ああ、楽になった。」と言ってくれる。人の役に立ってるって気がする瞬間だね。
やっと、だるまさんに両眼が入った。
倉敷中央病院の医事相談室の皆さん、ありがとう。
当院スタッフのみんな、ご苦労様。
ネコパコ事務長、これからもよろしく。
ネコパコ事務長、来年は、駅看板と野立て看板をやめてしまおうよ。
スロークリニックの勧めだよ。