新車の頃のカブリオ
と
だれだろね?
我が家のゴルフは1983年製で、御年28歳のご老体だ。Chicaさんが2歳ころ、Harunoが生まれそうなので、いくらなんでも、それまで乗っていた360ccのエアコン無しの軽四輪ではいかんだろう、というので新車で買った。
当時は滋賀の瀬田の山の上に住んでいて、ワーゲンゴルフを買おうと思って、琵琶湖大橋の近くにあったヤナセの滋賀営業所に行った。カタログを見ていると、カタログの最後に、カブリオの写真が載っていて、営業マンに「これは何?これはいくらなの?」と聞いたら、「ゴルフカブリオでございます。これはお高うございます、はい。」と言うんだ。なにせ、スタンダードのゴルフが180万円のところが400万円だって言うんだから。でも、気に入ってしまったんだからしょうがない、というわけで、清水の舞台から飛び降りた気になって買っちゃった。
ウォルフスブルクのフォルクスワーゲン社の生産ラインから出た通常のゴルフ1型ボディーを、ドイツのカロッツェリアであるカルマン社にそのまま送り、トップを切り取り、ソフトトップを架装し、フレームに強化を入れたものなので、お育ちがいいんだ。アメリカでは、Volkswagen Golf Cabrioでなくて、Volkswagen rabbit convertibleというらしい。
その後、新車で買ったのは、日産パオとゴルフ2型だけど、どちらも好きになれなかった。特に日産パオは全くの見掛け倒しだった。アルミニウム製かと思ったらプラスチックの上を金属風に仕上げたものだったり、高速道路の入口の大円周の高速コーナーで、アクセルを踏んでいくと、コントロールを失って、スピンするんじゃないか、という恐怖を感じた。ゴルフ2型は、粗大な感じで、黒河馬とあだ名した。1型に比べると改良されているはずだが、デザインに主張が失われ、材質感が安っぽかった。
ゴルフ1型は、ジウジャーロのデザインで、まるで、昔のアルマイトの弁当箱みたいに、かっちりと四角く整形したボディーに、丸い大きな前照灯が収まり、その潔さが美しく、かつ、機能的だ。市場調査かなんかして、時の流れに乗って売ろうとかいう、もの欲しさがなく、俺達が時代を作るんだという気概が感じられる。また、これが流行っているから、これに乗るっていうんじゃなくて、自分の目で見て、これってかっこいいじゃないか、面白いじゃないか、と思う人がいたということだな。
飛行機じゃあるまいし、せいぜい100キロくらいしかスピードを出さない車が、やたら空気抵抗係数にこだわって、その上、居住性だの容量だの、あれもこれも盛りこむと、どれも同じような車になるわけだ。日本人が貧乏人根性で、なけなしの我が家一台の車で、すべての条件を満足させたい、と思った結果がこうなのかね。早く走りたい人はポルシェで、偉そうで安全を求める人はメルセデスで、わがまま贅沢な美女みたいな車がほしい人はフェラーリ。英国王室気分をと思えば、よそ行きにはロールスロイス、普段用にはレンジローバー、というのは、某国の一部の人達の常識なのだろうが、彼らとて、一般市民は、本当にチープなオースチンミニとかボルボとか、お国柄に合わせた地味な車に乗っていて、街の雰囲気の中に溶け込んでいるように見えるものだ。
さて、このゴルフカブリオも、いよいよ、走行距離積算計が20万キロに近づきつつあるのだが、いろいろ不具合が多くなってきた。塗装のやつれや、小さなヘコミが気になるし、真夏、エアコンのスイッチを入れると、噴出しから、冷風と熱風が混じって吹き出してくるといった具合だ。ラジオのアンテナは上がらなくなってるし、リアのゲートは勝手に降りちゃうし。
なんといっても問題なのは、足回りで、サスペンションのダンパーが完全に抜けてしまって、スプリングだけで走っている状態であることだ。ちょっとした段差で簡単に横っ飛びしてしまう。
もうあかん、と何回も思ったけど、そのたびに切り抜けてきた。走りだせば、元気に走ってくれて役に立ってくれるんだけどな。もうダメかな。捨てる日が近いのかな?
さて、当家には、この2ヶ月間というもの、 「がま君」が居候していて、例のごとく好きなように気ままに暮らしている。社会人になって、給料ももらえるようになって、結構なことだ、と思っている。
彼がカブリオに乗れるように、保険に追加をしてもらった。ところがある日、彼が乗ったあと、ライネケが乗ってみると、なんと、サイドブレーキワイヤーがぶち切れている。27年間の疲労に加えて、力任せに引っ張ったのだろう。ひどいやつだ。
ヤナセに連絡すると、侠気のない気の利かない奴が出てきて、もう部品がないのでどうしようもない、と言う。新車を買いなさいということらしい。それなら、もうええ、世話にならんわい! というわけで、インターネットを検索して、米国の部品屋に発注した。
発注後、1週間目、届きました。
サイドブレーキケーブル左右二個13ドル☓2と、ついでにリアゲート開閉用ダンパー40ドル、合計66ドルと、送料が42ドル程度、都合108ドル(9000円ほどかな?)。
これで、安心して、坂道でも駐車できるし、車のトランクに荷物を入れるとき、頭でゲートを支えていなくてもいいわけだ。
がま君、優しくカブリオに乗ってやってくださいね。ライネケが、一見、手荒く、乗り回しているようだけど、それは28年間の互いの信頼があってのことなんだよ。
さて、がま君のことだけど、最初の2ヶ月間は、郷里近くの販売店に、毎日、背広ネクタイ姿で出勤して、将来の良きエンジニアの素地を作るために、洗車やら、自動車保険やら、販売、セールス活動を見習っているようだ。その後は、いよいよ、我が家を出て、工場や研究所に勤務するはずだった。彼との付き合いも、あと2週間ほどなんだね。今度こそ、彼の本当の門出なんだ。と、しみじみ思っていた。
ところが、4日ほど前、彼の爆弾宣言が・・・。
「え〜っと、僕ねえ、あのお、あと二ヶ月ほど伸びちゃった。」
「な、なんだって? 何が?」
「赴任は延期です。8月一杯まで伸びちゃった。」
「あ、あんた、それじゃ、2ヶ月じゃなくて、3ヶ月じゃないの!?」
「ああ〜、そうなりますかね〜。」
というわけで、がまは、まだ当分、我が家に棲息することになりました。居候なら居候らしくせえよ。ほんとにもう。