3月は旅立ちの季節だ。
今日、平成28年3月21日は、Shige、Snow、あるいは末っ子くんの自由学園最高学部の卒業式の日なのだ。末っ子くんが学生としてこの校門を通るのも今日が最後になってしまう。彼自身は、そんな感慨をいだくのだろうか。ひょっとして、それは数十年後のことかもしれない。
卒業式は不思議な出来事だ。
卒業生が入場して来る。入場口から入って来た末っ子くんが見えるかい。
着席した末っ子くん。
名を呼ばれて立ち上がる末っ子くん。いい姿勢だ。
晴れて卒業証書をもらって壇上に立つ。男子三日会わざれば、というが、いつの間にか、いい面構えになった。本当にそう思うよ。
卒業式のあと、女子部の生徒さんたちが作ってくれたケーキとジュースをいただきながら、先生方や他の父兄と言葉を交わす。生徒たちが自分たちで心を込めて、手作りする。ずっと頑張って来た成果で、完成度は相当高いと思う。伝統を感じる。これを失いたくない。
お世話になった先生方や級友、父兄の間に見え隠れする末っ子くんの顔を見つめる。歳月が、あっという間に過ぎ去って行った。すべてはこれからなのだ。
末っ子くんの、細いけど、こんなに和らいだ目元を、ずいぶん長い間見なかったような気がする。一方、私の口はへの字で目つきが険しいのは何故なのだろうね。二人ともこんなに年とってしまった。
先に卒業した友人のKくんも来て祝ってくれた。いい友達を持ててよかった。自由学園での友は一生の宝になるだろう。Kくん、ありがとう。
こうして、私達の卒業式は終わり、学園の門をあとにした。
再び私がここに来ることはないかもしれない、という思いを噛みしめ、来た路を帰る。
サッカーグラウンドの前のフェンスにつかまって、彼方のゴールを見遥かす。
グラウンドの向いの空き地には、春の足音がする。
ふたたび校門を振り返って見る。
中等部1年生の秋のつらかった日のことを思い出す。
振り返れば、あの日の坊主頭の末っ子くんが、まだ手を振っているのが見える気がする。
いよいよ、お別れだ。「学園通り」の矢印看板で、曲がり角だ。
少年はまだ手を振っていた。
卒業おめでとう。
さらば、自由学園。
末っ子くんが自由学園に入学したのは、今から11年前のことだった。以来、中等部3年間、高等部3年間、ギャップイヤーを含めて最高学部5年間を、この学園で過ごしたのだった。入学時はまだ少年だった彼が、いつの間にか、青年になっていた。東天寮の前で私達を見送ってくれ、私達二人に、いつまでもいつまでも、本当にいつまでも、手を振り続けた坊主頭の彼が、まだ校門の前に立って、手を振っている気がする。
帰って来た松前の西の空に、夕闇が迫って来た。思い起こすことは多いが、もう止そう。
私達も何度目かの卒業をするのだ。
そして、君とも、今度こそ、お別れだ。最後にもう一度呼ばせてほしい。ごきげんよう。末っ子くん。
君の前途に幸あれ。