蕎麦屋で昼食に食べる親子丼。
これは、「んー、今日はオヤコドンにでもするかね」
ってな感じで、
温かいしお腹いっぱいになれるし手頃なお値段の
庶民派の気のいいドンブリという訳です。
これがカツ丼になると、
「よっしゃ!かつ丼行くぜ!カツカツどんどんだぜ!」
ってな感じで。
なにやら気合を入れたり、容疑者の固い口を開くのに
刑事が奥の手で使うのかもしれないし、
庶民派でありながら、なにやら勢いのある存在という訳です。
それでもって天丼になってくると、
「まぁ、お前も頑張ったことやし、ここはひとつ天丼でも食べるか」
ってな感じで、
ドンブリでありながら奮発しちゃうぞっていう特別感が漂う
ちょっと別格な奴なのです。
ならば、だよ。
4000円する雲丹丼って、どんなもんなんでしょね?
仙人掌姉は考えていました。
というのも、事務長と築地に行くことになって、
色々調べたところ、どうやら雲丹専門のお店があって
雲丹の食べ比べが出来ると分かったからです。
前回行った時に見つけた、「雲丹零れ丼」なんて霞む位の
雲丹ですよ。
それって、どんなもんなんでしょね?
でも堅実に生きている事務長に
「4000円する雲丹丼食べに行こーぜい」なんて言ったら
きっとプルプル震えながら、
「仙人掌子よ、お前家計簿つけてるかい?」って言われるにちがいありません。
ふむ。ならば、知らんぷりして行っちゃえばいいんだな。
右も左も分からない事務長を路地から店に連れ込んで
そのまま有無も言わさず、注文しちゃえばいいんだな。
仙人掌姉は、夜中に青白く光る電子座布団の画面を覗きこみながら
密やかに「シシシシシシシシ・・・」と低く笑い、
翌朝、何食わぬ顔で事務長と地下鉄に乗り、築地へ向かったのでした。
早朝には競りが終わった市場は静かなものです。
事務長は、乾物やら刺身やらがずらずら並んだ店先に面食らい
何がなんやら訳分からん状態で
とある路地に潜り込む仙人掌姉の後ろを付いていった結果、
まんまと雲丹専門店に連れ込まれ、お品書きを前にして、
小さく震えましたが、カウンターに並んだ色とりどりの雲丹を前にして
陥落しました。
さて、話を最初に戻しましょう。
丼と書いて、ドンと読みます。
オヤコドン、カツドン、テンドン、ギュウドン、プテラノドン、イグアノドン。
雲丹食べ比べ丼。
この雲丹丼は、ドンとよんでいいものか。
ここまでくると、 どゥおン と腹に響く音で発音するべきではなかろうか。
出てきた雲丹丼を眺めながら仙人掌姉は思いました。
一欠けらずつ食べ比べてみると、確かに味が違う雲丹です。
お醤油をかけなくても味がします。
こってり甘い雲丹雲丹うにうに。
4000円の雲丹どゥおン でした。
雲丹味のげっぷを押さえつつ、「嗚呼、食べてしもうた・・・・・・」と
しみじみする事務長の後ろ姿。
でも、国産雲丹の食べ比べ丼を2種盛にするか3種盛にするかで
とっさに2種盛を選んでしまったのは、選択ミスだったと
仙人掌姉は後悔しています。
せっかくなんだから事務長に3種盛食べて貰えばよかったと思うのです。
また今度。ね。