「びやびや」っていうのは、愛南町の漁師たちが使う『新鮮』を意味する浜言葉なんだそうな。ピチピチとれたて、というのに近いのかな。それで、「びやびやかつお」というのは、愛南町の漁業組合の定義によると
一.一本釣りまたは曳縄釣りされたもの。
一.釣り上げてすぐに活け締め・血抜き処理をしたもの。
一.釣り上げたその日のうちに水揚げされたもの。
一.水揚げした後、スラリーアイスで保管されるもの。
一.愛南漁協が管理し、品質の確かさを認めたもの。
という条件をみたすものということらしい。
物好きに、片道130キロの道のりを2時間45分かけてたどり着いたのは、愛南町の深浦漁港。
この漁港は漁場が80キロのところにあり、魚が取れてから4時間で漁港に戻れるので、深浦漁港で水揚げされるかつおが珍重されるということなんだ。
深浦漁港の魚市場にある市場食堂に到着したのは、12時に10分ほど前だというのに、食堂内はすでに満席で、外まで行列が出来ている。
やっと建物の中に入れたけど、中でも立って待ってる。
ついにテーブルに着けたけど、注文をとってもらって、料理が出てくるまで、かれこれ40分近く待った。これが、「びやびやカツオ刺身定食」。
食べてみて、なるほど、ちっとも生臭さがない。それを、大甘めの醤油にわさびを沢山入れて、食べるのが、こちらの食べ方のようだ。
たしかに、近所のスーパーで買うとよくあるような黒ずみはなく、新鮮なカツオ本来の赤身肉の刺身だ。かなりの量があり、これだけ食べれば、カツオは堪能したと言えるだろう。
ネコパコは、「鯛のごまだれ丼とカツオのたたき定食」だ。このかつおのたたきも一見淡口醤油がかかってるだけのようだったが、全く、魚臭さがなく、高知のひろめ市場で食べたより美味しいと思った。
鯛のごまだれ丼というのは、南予風の鯛めしなんだが、これも美味しかった。吾輩には、宇和島市内で食べたより、この方が口に合ってた。
店に入れないで、外で列に並んで待っている間に、漁場から漁船が帰ってくる。
一本釣りで釣り上げられたカツオは海上で直ちに血抜きされ、氷水で冷却されて、港に急いで運ばれるわけだ。
市場は、広々として、手入れが行き届き、きれいで、活き活きしているようだった。
有名な深浦漁港の「びやびやカツオ」を食べることができて満足気なライネケとネコパコなのだった。
さて、結局、きつねこ邸から深浦漁港まで2時間45分、店の前で列に並ぶこと1時間半、テーブルに着き、注文をとってもらってから料理が運ばれてくるまで、さらに40分ほど、食べるのは、20分くらい、それから、また、松前までの長い道のりを帰ったのだった。
そこまでして、食べなければいけないほどのものか、と言われると、どうだか。今まで、様々の機会において、アソコのアレは、他とは全然違う、とか、めちゃくちゃ美味しい、とか、よく聞かされてきた。そのたびに、う〜ん、たしかに美味しいといえば美味しいし、まあ、結構なものでございますね、と思ったこともある。だからといって、何がなんでもこれを喰わないとイカンというほどのものはなかったと思う。
いい年した大人が、この程度のもので、めちゃくちゃうまいとか、簡単に、最上級表現の幼稚な言葉を使うのもどうかね。質素でも、程良く、ちゃんとしたものを三度三度、ありがたくいただいておれば、それでよいのだ。まして、それが美味しければ、まことに結構なことじゃないか。
美味しい時は、干物のメザシでも十分美味しくて、幸せだ。食物に限らず、たいがいの物事は、これでなきゃいけない、ということはない、というのがおいらの意見だ。
世間知らずで不調法もののライネけの言い草だ。笑って聞き捨ててくれ。