人には忘れられない場所というものがそれぞれあるでしょう
私にとってその一つがこれ
京都四条河原町の東華菜館
両親と5才年上の姉と私
親戚のおじさんと 久しぶりに会う東京の叔母
それに加えてでっぷり太った胡麻白頭の
今までついぞ見たことのないおしゃれなチェックの上着のおじいさん
私のおめかしの芥子色の新しい靴はちょっとぷかぷかだったが
晴れがましかった
上階へ上がるためのエレベーターのドアの大きさ
きっと私はポカンと口を開けて半円形の行き先表示を見ていただろう
ガラスのドア越しに各階を通過してはるか遠い所へ運ばれた
目にするものすべてが物珍しく不思議に満ちてずっしりしていた
大きな魚が丸揚げになってテーブルの真ん中にあった
母は熱心に作り方をおしゃれなおじいさんに教えてもらっていた
「ビールの美味しいつぎ方はね…」などという話も交えて
父もいつになく上機嫌だった
運ばれた料理がテーブルが目の前をぐるぐる回る
私は目がまわりそうだった
ついさっきまで渡り廊下のある大きな静かな建物で見てきた
あの沢山の焼物を作ったのがこのおじいさんだということが分かった
東京の叔母さんの雇い主だということも分かった
かの食の巨匠と言われる北大路魯山人と丸テーブルで
鯉の丸揚げあんかけを食べた場所がここ
私のはじめての異文化体験だった その時3才
それから15年後大学生活を京都で過ごすことになった時
この建物をバスの中から見かけ、覚えてないのに覚えていた
ドキッとした
でも中に入ってみたいとはついぞ思わず9年間が過ぎて
京都を離れた
先日 姉と京都に遊んだ
先斗町の歌舞練場前の料理屋で昼食をすませ
四条に向かって南下
小径が途切れた途端
目の前に現れた建物
夏の名残の青と雲を背景に昔のまま立っていた
周辺はずいぶん変わったが、懐かしい場所だった
姉と二人で懐かしい記憶を話し合えた
共有出来る体験を持つ人は大切にしたいとおもった
我が家の子ども達にとっての共有体験ははたして何だろうかと考えた
お定まりの家族旅行
何度もおばあちゃんちで食べた料理…
肉じゃが 黒豆 茶碗蒸し 豆腐と揚げの味噌汁 カレーライス…
母もだんだん衰えて人のために食事を作ることが最近負担になって来た
哀しいかな あんなにも人に食べさせることに熱意を持っていたのに
思い出すよすがに 朝ご飯の時に必ず出ていた
宮内家お気に入りの古い芭蕉皿を譲ってもらった
もう母の料理を食べることをしない哀しい決心と
子どもが幼かった日々の家庭のにぎわいと
私たちは少しずつ過去を流しながら 自分も流れて行く
♡ 松前で初めて見つけた土佐清水のゴマ鯖 ♡
鮮度がうれしく購入
早速 刺身と幼い頃の大好物しめ鯖を作った
キトキト光った脂が美味しかった
ロナもめざとくやって来た
しめ鯖好きはガマに遺伝したみたい
などと思いつつライネケと二人で晩ご飯を食べた